人材開発支援助成金「事業展開等リスキリング支援コース」は、新規事業の立ち上げやDX、グリーン・カーボンニュートラル化などに必要となる新しい知識・技能を従業員に習得させるための訓練を支援する制度です。
「生成AIやデジタル技術を業務に活用したい」「新規事業を立ち上げるために社員を育成したい」「DXを進めたいが社内に必要なスキルを持つ人材がいない」といった企業にとって、確認しておきたい助成金です。
この制度では、一定の要件を満たす訓練について、研修・訓練にかかる経費だけでなく、従業員が訓練を受けている時間の賃金についても助成対象となります。
この記事では、2026年8月時点で厚生労働省が公開している公式情報をもとに、事業展開等リスキリング支援コースの対象となる訓練、助成内容、活用方法、申請前に注意したいポイントをわかりやすく解説します。
事業展開等リスキリング支援コースとは?
事業展開等リスキリング支援コースは、人材開発支援助成金に設けられているコースの一つです。
企業が新規事業の立ち上げなどの事業展開を行う場合や、DX・グリーン化などに対応するために、従業員へ新しい知識・技能を習得させる訓練を実施した場合に支援を受けられる可能性があります。
通常の社員研修とは異なり、企業の事業展開や事業戦略と、従業員が習得するスキルとの関係が重要になります。
どんな人材育成に活用できる?
対象となるのは、事業展開等に伴って新たに必要となる知識や技能を習得させるための訓練です。
| 企業の取り組み | 訓練のイメージ |
|---|---|
| 新規事業 | 新しい製品・サービスを提供するために必要な専門知識の習得 |
| DX | デジタル技術を活用するための知識・技能の習得 |
| AI活用 | AI等を業務や新サービスへ活用するために必要なスキルの習得 |
| 業務のデジタル化 | 新しいデジタルシステム等を活用するための訓練 |
| グリーン化 | 脱炭素・カーボンニュートラル化に必要な知識・技能の習得 |
実際に対象となるかは、訓練内容だけでなく、事業展開等との関連性や訓練要件を満たしているかによって判断されます。
中小企業なら訓練経費の75%を助成
事業展開等リスキリング支援コースでは、対象となるOFF-JTについて、訓練に必要な経費と訓練期間中の賃金の一部が助成されます。
| 企業区分 | 経費助成率 | 賃金助成 |
|---|---|---|
| 中小企業 | 75% | 1人1時間あたり960円 |
| 中小企業以外 | 60% | 1人1時間あたり480円 |
例えば、中小企業が対象となる外部研修を従業員に受講させた場合、要件を満たせば受講料等の75%が経費助成の対象となります。
さらに、従業員が勤務時間中に訓練を受講し、その時間について賃金を支払っている場合には、賃金助成の対象となる可能性があります。
研修費だけでなく「訓練中の賃金」も支援
この助成金の特徴の一つが、研修の受講料などだけではなく、訓練期間中の賃金についても助成が設定されていることです。
企業が従業員に研修を受講させる場合、研修費だけでなく、通常業務から離れて研修を受ける時間も企業にとって負担になります。
事業展開等リスキリング支援コースでは、対象となるOFF-JTについて、中小企業の場合は1人1時間あたり960円の賃金助成が設定されています。
そのため、複数の従業員を対象とした本格的な人材育成を検討している企業にとって、研修実施時の負担軽減につながる可能性があります。
例えば100万円の研修ならどのくらい?
中小企業が対象要件を満たす100万円の訓練を実施し、その全額が経費助成の対象として認められるケースを単純化して考えてみます。
| 項目 | 例 |
|---|---|
| 対象となる訓練経費 | 100万円 |
| 経費助成率 | 75% |
| 経費助成額の計算例 | 75万円 |
| 企業負担 | 25万円 |
さらに、要件を満たす訓練時間については賃金助成が加わる可能性があります。
ただし、実際の支給額は対象経費、受講者数、訓練時間、助成限度額、各種要件等によって異なります。
AI研修なら何でも対象になるわけではない
生成AIの普及によって、ChatGPTなどのAIツールを社員教育に取り入れたい企業も増えています。
しかし、「AIという言葉が入った研修」であれば自動的に助成対象になるわけではありません。
事業展開等リスキリング支援コースを活用する場合は、 企業が進める事業展開やDX等と、その訓練によって習得する知識・技能との関係を整理すること が重要です。
例えば、新しいAIサービスを開発する事業へ進出する企業が、その事業に必要なAI技術を社員に習得させる場合などは、事業展開と人材育成の関係を明確に整理できます。
2026年度は「設備投資加算」も新設
2026年度の制度改正では、事業展開等リスキリング支援コースに設備投資加算が新設されています。
厚生労働省は2026年4月8日からの変更点として、この設備投資加算の新設を公表しています。
人材育成と一定の設備投資を組み合わせて新しい事業展開等を進める企業にとって、確認しておきたい制度変更です。
設備投資加算には対象となる設備や金額、事業計画などの要件が設定されているため、利用する場合は最新の支給要領・パンフレットを確認する必要があります。
1事業所あたりの助成限度額は?
事業展開等リスキリング支援コースでは、助成額に上限があります。
2026年度の制度では、通常の訓練に対する助成について、1事業所1年度あたり1億円が助成限度額として設定されています。
ただし、訓練ごとにも助成対象となる経費や時間数等に要件・限度があります。
「1億円まで自由に研修へ使える」という意味ではないため、実際の計画では個別の支給要件を確認することが必要です。
申請は「研修を受けてから」では遅い
人材開発支援助成金を活用するうえで、特に注意したいのが申請手続きのタイミングです。
訓練を実施した後に、「この研修に助成金を使いたい」と考えて申請する制度ではありません。
事業展開等リスキリング支援コースでは、訓練開始前に職業訓練実施計画届などの必要書類を提出する手続きがあります。
また、事業内職業能力開発計画の作成など、事前に準備する事項があります。
研修会社との契約や訓練開始を先に進めるのではなく、まず最新の支給要件と必要な手続きを確認することが重要です。
申請から助成金受給までの基本的な流れ
- 新規事業・DX等の事業計画を整理する
- 必要となる人材・スキルを明確にする
- 対象となる訓練を選定する
- 事業内職業能力開発計画等を準備する
- 訓練開始前に計画届等を提出する
- 計画に基づいて訓練を実施する
- 訓練終了後に必要書類を整えて支給申請を行う
実際には訓練方法や申請内容によって必要となる書類・手続きが異なります。
厚生労働省では2026年8月3日以降の申請様式も公開しているため、申請時点で最新の様式を使用してください。
こんな企業はリスキリングを検討する価値がある
- 新規事業を立ち上げる予定がある
- DXを進めたいが社内にデジタル人材が不足している
- AIを新しい製品・サービスや業務に活用したい
- 既存社員を新しい事業の担当者として育成したい
- 脱炭素・グリーン化に必要な専門人材を育成したい
- 外部採用だけに頼らず社内人材を育てたい
特に新規事業では、「設備は導入したものの使える人がいない」という状態を避けるためにも、設備・システムへの投資と人材育成を一体で考えることが重要です。
補助金と助成金を組み合わせて考える
新規事業やDXを進める場合、必要となる投資は人材育成だけではありません。
新しい設備、ITシステム、ソフトウェア、研究開発、販路開拓などの投資が必要になる場合もあります。
こうした投資については、それぞれの目的に応じた補助制度が利用できる可能性があります。
一方、人材開発支援助成金は、一定の要件を満たす従業員の職業訓練などを支援する制度です。
「設備・システムへの投資」と「その設備や技術を活用できる人材への投資」を分けて考え、利用可能な支援制度を検討する ことで、事業全体の投資計画を整理しやすくなります。
よくある質問
AI研修は対象になりますか?
AI研修であることだけで対象になるわけではありません。事業展開等に伴って新たに必要となる知識・技能を習得するための訓練であることなど、所定の要件を満たす必要があります。
研修会社へ支払う受講料は対象になりますか?
対象となる訓練については、受講料など一定の訓練経費が経費助成の対象となる場合があります。対象経費には条件があるため、契約前に最新の支給要領等を確認してください。
オンライン研修も対象になりますか?
制度にはeラーニング等に関する申請・実績報告の仕組みも設けられています。ただし、訓練方法ごとに要件があります。
研修を始めてから申請できますか?
訓練開始前に計画届等の提出が必要です。利用を検討する場合は、研修開始前の段階から申請手続きを確認してください。
まとめ|DX・AIへの投資は「人材育成」まで一体で考える
新しいシステムやAIツールを導入しても、それを使いこなせる人材がいなければ十分な効果を得られません。
事業展開等リスキリング支援コースは、新規事業やDX、グリーン化などに必要となる新しい知識・技能を従業員に習得させる取り組みを支援する制度です。
中小企業では、対象となる訓練について経費助成率75%、賃金助成は1人1時間あたり960円が設定されています。
新規事業やDXを計画するときは、「何を導入するか」だけではなく、「誰がそれを活用するのか」まで含めて投資計画を考えることが重要です。
人材育成・DX・新規事業に使える支援制度を知りたい方へ
「AI・DX人材を育成したい」「新規事業に必要な社員研修を行いたい」「設備投資と人材育成を同時に進めたい」「自社で利用できる補助金・助成金を知りたい」といった場合は、契約や研修を開始する前に利用できる制度を確認することが重要です。
Saluteは補助金・助成金の活用をトータルサポートします。
事業内容や投資計画に応じた支援制度の選定から、申請に向けた計画策定・必要書類の準備までサポートいたします。
参考・出典
※本記事は2026年8月23日時点で公開されている厚生労働省の公式情報をもとに作成しています。助成対象となる訓練、対象経費、助成率、助成額、申請方法等には詳細な要件があり、制度改正が行われる場合があります。利用を検討する際は、必ず計画届提出時点の最新パンフレット・支給要領等をご確認ください。